クールジャパン政策を批判する
たまには真面目な記事を。@Sanyontamaです。
官民一丸となって日本のコンテンツを世界に売り出す。
これだけだと聞こえがいい。しかし、実際には何をやっているのか、何が起きているのかを知る人は少ないと思う。
クールジャパン政策と言えば、我々の税金も投入されているのが、何か成果を得ているのだろうか。国民としても実感がないのが現状だ。
だからクールジャパンの実情を調べてた。そうして、この批判記事を書くに至ったわけだ。
クールジャパン
日本のコンテンツ、文化を海外に発信することを目的とされている国策。人材育成なども目的の一つとされている。2010年にはクールジャパン質が経産省に設置され、13年には内閣官房にクールジャパン推進会議が設置された。
でもやっていることはよくわからない。そんな政策だ。
なぞの組織たち
いったい何がクールなのか。
クールの定義は不明だし、謎の新組織が設立されたりしている。そこには税金が投入されている。
All Nippon Entertainment Worksという組織がある。略称はANEWだ。ここは産業革新機構から60億の投資を受けている。産業革新機構は官民ファンドなので税金が投入されているわけだ。この時点で色々ときな臭さが漂う。マネーロンダリング的なものを感じてしまう。
このANEWという名前を目にした人は多いはずだ。最近もとある話題で名が登場していた。TIGER & BUNNY(タイバニ)のハリウッド実写化だ。バンダイナムコピクチャーズとアメリカのイマジン・エンターテインメントにANEWの共同制作により実写化されると発表された。
このANEWは2012年に発表されたガイキングのハリウッド実写版にも噛んでいる。ソウルリヴァイバーのハリウッド実写化にも同じく関わっている。
しかし、どれも音沙汰がない。映画は作るのに時間がかかる。今までも日本作品がハリウッド実写化される場合、発表が行われたのちは数年間音沙汰なしということもあるので、発表から3年ほどでしかないために仕方がないことと片付けられるかもしれない。
しかしANEWの困ったことには2年ほどで利益を出せると発言している。ANEW自体は2011年に設立されて、ガイキングが2012年12月に発表されている。それから3年近くが経過しようとしているのに未だに進展は見られない。
この2年ほどという発言は政策会議のコンテンツ強化専門調査会(第4回)で行われている。議事録にもしっかりと記載されている。
厳密には2年とかそれぐらい後と発言している。だからセーフかというわけでもない。利益を出せると言っておきながら、音沙汰がない。本当に利益を出す気があるのかと勘繰りたくなるわけだ。映画には時間がかかるのは理解している。でも国民の税金を投入されている会社なのだから、作品の進捗に関しては細かに情報を提示する必要があるはずだ。それなのに、何も情報がないのだから、本当に動いているのかと疑問視したくなるわけだ。
国民の税金を使っておきながら、とりあえず発表だけしておいてあとは知らんぷり、そんな感じの怪しい会社がハリウッドと映画を上手く作れるのだろうか。タイバニ実写化に歓喜した人には悪いけれど、恐らく、上手くいかないと思う。上手くいく要素が見当たらない。ANEW関わるガイキングの監督や主要スタッフ、出演陣を決定していたり撮影が開始されたという一報でもあれば期待が出来たのだけれど、発表以降の進展が皆無だからこそ、私はANEWが関わっていると知った時点で期待しないことにした。
議事録にもあるけれど、映画はヒットすれば1500億円ぐらいでるから、そのマーケットを狙いリメイクしていこうぜーという考えが既に甘いと思う。公開すれば全てヒットするわけではない。簡単にヒットするのならば、死んでゆく作品はないのだから。
ANEW以外にも謎の組織がある。
ジャパンデイプロジェクトという物がある。カンヌ国際映画祭のジャパンパビリオンでくまモンやおしゃべりアンドロイドを披露してきた。カンヌ国際映画祭で開催した「Kanpai Night」というイベントに経産省のメディアコンテンツ課の課長が登場した。このジャパンデイプロジェクトは経産省の後援なので、イベントに経産省お役人が登場しても不思議ではない。
しかし、Webサイトを見ても簡素なつくりになっているので、何が何だか全く分からない。これもまた怪しい組織だ。
なぜカンヌ国際「映画祭」でゆるキャラやアンドロイドを展示したのだろうか。ジャパンパビリオンでは日本映画に関するイベントも行われていた。しかし、映画祭なのだから映画に関連したものを展示すべきだろう。くまモンは映画がつくられているので辛うじて映画祭に繋がるけれど、アンドロイドはどういう訳でやってきたのか。あとコップのフチ子も展示されていたとか。映画に全く関係のないものを展示する理由が分からない。日本のコンテンツ見本市ではなくて「映画祭」なのだ。色々と勘違いしてないかと言いたい。日本の恥だと思っている。
是枝監督もカンヌにくまモンがいるのはなぜかとお怒りだった。本当、なぜ映画に関係のないものを選んだのだろう。キャラクターに罪はないのに、とばっちりを受けている始末だ。
このジャパンデイプロジェクトは2015年の8月に台湾の漫画イベントでブースを出展すると公式サイトで発表していたのだが、それもいつの間にか削除されている。
いったい何がしたいのか、本当に分からない。
こんな組織はまだまだある。クールジャパン機構もそうだ。正式名称は海外需要開拓支援機構。名の通り日本の様々な物を海外へと輸出するべく国や民間が出資して設立された官民ファンドだ。設立当初は政府が300億を出資している。
そんなクールジャパン機構を批判する一幕があった。それは東京国際映画祭のシンポジウムである。その批判者は外国人だ。外国人のほうが問題を重く受け止めているというも皮肉である。
クールジャパン機構は実質大手広告代理店が運営している状況で、支援するのは大企業のみ。中小企業には何らチャンスもない不平等さを指摘している。
大手広告代理店が運営……。胡散臭い。天下りとかいう文字が浮かんでしまう。
国民の税金を投入しておきながら様々な新組織が乱立されている現状。それらが何も利益を生み出さないどころか、日本の価値を貶めている状態だ。お国には何がしたいのだろうか。日本を世界にPRするのであれば、もっとしっかりとしたやり方があるはずだろう。
それに支援の不平等さが最も重要な問題だ。国はアニメなどのコンテンツもクールジャパンと定義しているようだが、この業界はかなり困窮している。そこに救いの手を差し出すことをせずに、大企業ばかりを優遇しているわけだ。
クールジャパンとはなにか?
国民の財布を寒くさせる意味でのクールなのだろうと考えてみたりしている。
諸外国のコンテンツ環境
海外では金払ってまで映画の誘致をしている。
アサシンクリード実写版を誘致したマルタ共和国では25%還元のインセンティブがある。
A call for an Expression of Interest has been issued for Malta Film Studios | The Location Guide
アメリカのアトランタ州では20%還元で撮影スタッフ確保への支援が行われている。
Marvel starts filming Captain America Civil War at Pinewood Atlanta | The Location Guide
アメリカも一枚岩ではなく、各州が独自に誘致政策を行っている。今やハリウッド映画はハリウッドで撮影される時代ではなく、還元率の高い州や国外で撮影することが多い。
アメリカやカナダ、イギリスなどでは映画ロケのみならずVFXスタジオやアニメスタジオにも税制優遇措置を行っている地域も存在するほどだ。
ちなみにイギリスでは映画アニメゲームに対して税制優遇を行う予算案が2014年に可決された。
アニメ会社に対して製作費の25%を還元する。これには会社の規模は関係なく、全ての会社が支援を受けられる仕組みになっている。低迷していたイギリスアニメ産業の活性化に繋がり、様々なシリーズが生まれた。海外の製作会社がイギリス企業との共同製作を提案するなど、イギリスアニメーションの海外PRにも役立っている。(共同製作でも税制優遇が受けられるため)
アジアでも同様の政策は存在している。台湾や香港でもインセンティブがある。
政府や地方政府が率先して撮影環境を整備し、海外ロケに資金を提供している。これは単に金をばら撒くだけではなく、国内に雇用を生み出す。それに国内で雇われた人が技術を得て、その国の映画技術向上につながる。最終的にはファンのロケ地巡礼、いわゆる聖地巡礼をもくろんでいるわけだ。聖地巡礼は実際に来てくれればいいな、という希望的観測でしかない。
世界各国が税制優遇措置をとるのは国内産業の活性化につなげるためだ。国内コンテンツの質が低くても、技術力のあるハリウッドやイギリスの映画ロケを誘致できればいいわけだ。撮影スタッフ全員を本国から連れてくることは不可能だから、必然的に現地人スタッフを雇用することになる。この時点で雇用が発生し産業活性化の第一歩が始まる。撮影中は宿泊施設や各種商業施設で物資購入が行われて、地域経済も一時的かもしれないが活性化する。
映画が完成されれば作中でロケ地のPRに繋がる。映画を見た人が聖地巡礼を行う可能性もある。
ロケ誘致=聖地巡礼が目的ではないのだ。製作段階で発生する経済効果を考慮している。だからこそ、還元措置を行えるわけだ。
日本にはこのような税制優遇措置は存在していない。ロケを誘致する時も聖地巡礼の観点からでしか考えていない。そんなので成功するわけがないのだ。世界は製作段階での経済効果を睨んでいるのに、日本は起きるか分からない聖地巡礼効果にばかり目を向けている。最初から観点が違う。だから勝てるわけがない。
日本はこうして映画ロケを逃してきている。遠藤周作氏の「沈黙」がマーティンスコセッシ監督で実写化される。これは江戸時代を舞台にしたキリスト教小説だ。江戸時代が舞台なのだから日本で撮影されているとお思いかもしれないが、これは台湾で撮影されている。
Silence (2016) - Filming Locations - IMDb
アンハサウェイ主演の怪獣映画「Colossal」という作品がある。カンヌで配布された資料にゴジラが無断で使用されていたため東宝との間で問題になった作品だ。東宝との決着もついたので本格始動する。
当初は東京が舞台であったが、いつの間にか韓国ソウルが舞台になっていた。これも韓国のロケ誘致政策が成功した証拠だ。撮影しにくい東京よりも受け入れる体制が整っている勧告を選ぶ。だから脚本も書き換えられてしまうのだ。韓国はアベンジャーズ2のロケ誘致で大きく流れを変えている。
Dan Stevens Joins Anne Hathaway in ‘Colossal’ Cast | Variety
時代劇と怪獣。クールっぽい映画作品が海外に取られてしまった。これをどう考えているのだろうか。怪獣映画は世界各国を舞台にしても違和感がないが、時代劇となると話は違う。確実に言えるのは「日本でなければならない」ジャンルだからだ。
それなのに台湾で撮影されているという事実を、政府のお方はどう捉えているのか。
本当に頭が痛くなってくる。
クールジャパンは日本国民の敵なのか?
既に財布を寒くさせている時点で敵なのは明白だけど、今年3月に報道されたニュースが一番グサリときた。
クールジャパン機構は海外で漫画やアニメのクリエイター育成事業を行うKADOKAWAと提携し最大4億5000万を出資するという。日本で不足するクリエイターを育成するためで、KADOKAWAは既に台湾とシンガポールで日本風のキャラクターデザイナーを育成する専門学校を設立している。パソナグループも関わっているとのこと。
このニュースを見たときは「マジッすか・・・?」と言葉を失った。
日本のアニメスタジオに所属し、その奴隷待遇を告発した外国人アニメーターの記事がある。
実名公表で日本アニメ業界の奴隷待遇を告発した例は少ないと思われる。
劣悪な環境は予てより周知事項であったが、この告発で真相が克明になった。
アニメ業界の過酷さに関して政府が無知なわけではない。樹林伸氏がクールジャパン会議でアニメ業界の労働環境について問題提起を行っていた。
この会議は2年前に行われている。樹林氏の問題提起によりアニメ業界の過酷さは政府に伝わっているはずだ。しかし、2年が経過しているがアニメ業界の労働環境が改善される兆しは全くない。
そんな状況なのに、税金が投入された官民ファンドが海外でのアニメーター育成事業に出資するというわけだ。意味が分からない。
文字通り血へどを吐くのが常態化している業界を見てみぬふりで、支援を必要としている場所へはお金を出さず、海外にばら撒く理解不能な行動を見せている。何がしたいのだろうか。アニメ業界の叫びが聞こえないのだろうか。
この海外クリエイター育成事業への出資理由として「日本で不足するクリエイターを育成する」という物を挙げている。
アニメ業界へ憧れる人は潜在的に多いはずだと思う。業界の劣悪さが常識として知れ渡っているから、アニメの道から遠ざかる人も多いのでは。だからクリエイターが不足するのではと考える。
体を酷使しても生活もままならない薄給の業界に行きたがる人は少ないだろう。そのような現状を改善させることもしていない。政府はそんな動きすら見せていない。
なのに海外には金をばら撒く。一体何がしたいのだろうか。
アニメ業界の労働環境に関して、MBSが特集を行っていたので参考として紹介。
日本のアニメ産業空洞化を狙っているようにしか思えない。アニメ産業に止めを刺す行為だ。国内の劣悪さが改善されないまま、海外が力をつけていくなんて馬鹿な話はないだろう。
国内が劣悪環境なまま海外に力をつけさせていけば、電機産業みたいに海外勢が優勢となり、日本の存在感が薄くなっていく事になるはずだ。政府はアニメ業界でそれを再現しようとしているのだ。
これの何がクールなのだろうか。クールというのは凍え死にさせるという意味に思えてしまう。クールジャパンとは日本の産業を凍え死にさせる政策なのだろう。そうでなければ、海外へばら撒くことなんかしないだろう。
国内産業の事はまったく考えていない。このことだけは言えるはずだ。
ブリザードジャパン
謎の新組織たち、海外を取り巻く環境を記してきた。こうみるとどこに「クール」の要素があるのかが全く分からない。
クールどころか国民が凍え死んでしまうほどの酷い有様だ。
結局、クールジャパンといっても実態は広告代理店が主導であったりと、黒いものでしかない。クールジャパンなのに海外へ金をばら撒いたり、大企業の海外進出に出資していたりと、奇妙な動きばかりとなっている。
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これらはほんの一部でしかない。
大企業ばかり優遇して何をしたいんだろうか。これからを担っていく新参者にはチャンスがなく、資金力のある大企業ばかりを優遇する。こんなんじゃ日本でなにをやっても意味がない、と夢と希望を潰すだけだろう。
一体クールジャパンとは何がしたいのだろうか。お金を確保し新組織を作っての天下り先確保が目的なのでは。
大企業にお金をばら撒くのも「椅子」を購入しているのだろう。そう考えれば色々と納得がいく。
政府は日本コンテンツのみならず産業全体の未来を考えているのだろうか。税金を使うのは良い。まともにしっかりと使用されて、収支も明らかにされ確かな結果を生み出しているのであれば、私は文句を言わない。だけど現状ではそれが一切ない。
どのような未来を生み出したいのか、そのビジョンすらも国民には見えていない。政府はビジョンを提示しているつもりなのかもしれないが……。
クールジャパンが行きつく先が分からない。それなのに税金が消えてゆくから怒りたくなるのも当然だ。政策自体も意味不明なことばかりをしているのだから尚更である。
はっきりと言いたいが、今のクールジャパン政策は日本国民の敵でしかない。世界における日本コンテンツの地位向上どころか貶める結果にしかなっていない。
だからこそ、今からでもしっかりとした政策に転換してほしい。というか、もう止めたほうがいいだろう。何一つ成果が出ていないのだから、さっさと見切りをつけるべきだ。
クールジャパンではない。国民を凍え死にさせる政策だから、ブリザードジャパンに名前を変えたらいいのでは。
国民は凍えて死ねと叫んでいるようにしか見えないので。