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『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』が仕掛ける巧妙な罠

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中国映画会社2社のロゴが冒頭に出現するなど、チャイナマネーの影響力を見せつけられた「ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション」は大スターであるトムクルーズ氏の代名詞ともいえるシリーズ最新作だ。

本編には中国要素がほぼ皆無という点に驚きつつ、鑑賞後に予告編と宣伝はすべて罠だったという事実に気づいたときは唸るしなかった。完全にやられてしまった。

アクションだけではなく、サスペンスが上質に上品に主張してくる傑作だった。

 

今回は本格的な「IMF解体」が議論される中、イーサンハントは各地で発生するテロを裏から操るとされる「シンジケート」を追う。存在しないとされる「シンジケート」を独断で追うイーサンは国際指名手配にされてしまうという流れである。

 

ネタバレを含みます。

 

イーサンハントが独断で敵組織を追うというのは、これまでも描かれてきた流れでありもはや様式美的な物へと昇華されている。

このシリーズで語るべきは「アクション」だ。そのアクションは、観客への罠になっているのである。

 

予告編でも話題となったトムクルーズ53歳本人による輸送機へのしがみつきアクションが本作の注目点である。

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劇中、イーサンハントのチームは化学兵器が搭載された輸送機を食い止めようと行動するのだ。ドアロック解除が容易にはいかず、仲間のベンジーも四苦八苦するという流れだ。

化学兵器の拡散だけは何としても避けたいイーサンは輸送機から離れる考えは持ち合わせておらず、そのまましがみつき続ける。輸送機は遂に離陸してしまい、イーサンは空中でのしがみつきを強いられるのであった。

予告やプロモーションどころかポスターでもしつこいほどにアピールされてきたトムクルーズ御年53歳によるノースタント輸送機しがみつきだ

CGも合成も使用していないという文句で話題だが、安全のためワイヤーでトム氏の体を機体に固定している。CGでそのワイヤを削除している。CGによる修正はそれぐらいだ。

現代のVFX技術を用いれば合成はもちろんのこと、トム氏もフルCGで描き、このしがみつきを実現することは可能だ。だが、スタントすら行わずトム氏本人がしがみつくということに意味が存在する。

公開前にしがみつきシーンのメイキングが公開され「本作の見どころはトムクルーズ本人による合成CG一切なしの飛行機しがみつき」と煽っているのも、すべては巧妙な罠である

「あのハリウッドスターが生身で危険なスタントに挑んだ!」という煽り文句で劇場へ足を運ぶ人を増やすという策略だ。これは誰もが分かるほどに、露骨な煽りである。

この映像が今回はどれほどの危険なミッションになるのか、と観客の期待を煽りに煽るのだ。生身のスタントという事実が緊迫感を引き締め、作品への注目度を向上させる。SNSにおけるプロモーションでもしつこいほどに、このスタントメイキングを見せていたのも期待を煽り観客を劇場に向かわせるための罠なのだ。8回もこのしがみつきシーンを撮影したという事実も煽り宣伝の一つだ。

 

 

この飛行機しがみつきは重要な場面であり、重要ではないという矛盾を抱えている。

物語の冒頭でこのしがみつきシーンが登場する。

今作の敵が化学兵器を輸送しているので、このシーンは物語としては重要な存在となる。しかし、化学兵器は本筋にさほど影響しないのだ。そのために、この派手なアクションは重要かつ重要ではないという矛盾を抱えた。

その矛盾の正体も「罠」である。観客へ先入観を与えるという罠である。あれほど煽ったアクションシーンをいとも簡単にみせてしまうことにより、これ以上のアクションがあるのではないのか?と期待感と、この後は勢いが低下していくのでは?という不安感の両方を煽るのだ。

冒頭でアクションへの自信を観客に見せつける。手ごたえを感じさせ、今作はアクション映画だと冒頭で認識させる。

そして公開前から期待感を高めることにより、この作品がアクション映画であるのと同時に実際には今まで以上の重厚なサスペンスを味わえる、二面性を持つ大作という事実を観客に突き付け、驚愕させることが目的なのだ。

アクション映画。その認識を植え付けさせる罠が公開前から始まっているのである。

これまでの作品もアクション押しだったという事実ですら、今作への罠に思えてくる。

 

ウィーンでオペラ鑑賞中のオーストリア首相の暗殺を食い止めるべく、イーサンとベンジーが行動する。

ここでは派手な銃撃戦や肉弾戦が行われることはない。オペラをBGMにイーサンとテロリストが劇場を混乱させないため控えめに戦闘していく様は厳かであり重厚な場面に仕上げている。静かな戦闘ゆえに、どこかで緊張の糸が切れてしまうのではないかという不安感を観客が味わうのだ。

三人の暗殺者が入り乱れ、オペラの荘厳な歌声を背景にイーサンが誰を始末するべきなのかと葛藤する様はサスペンスとアクションを見事に融合させ優雅すらをも感じる場面に仕上げている。

 

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今作は見事なほどにサスペンスとアクションの繋ぎがうまい。

今まではアクションで物語(サスペンス)を動かしていくという作風が多かったが、今回はアクションシーンよりも「語り」により謎を推理していくシークエンスが多く感じられるほどだ。

サスペンスのためにアクションが存在していると実感させられる、巧みな脚本が存在していた。サスペンスもアクションも過剰になりすぎずに、互いを尊重しあって同居している構成には驚嘆させられる

アクションをねじ込むが故の不自然さも一切感じられず、一連の流れが自然に形成されていき「こうするしかない」と観客を納得させる様は見事である。

 

アメリカやイギリス、IMFにMI6、そしてシンジケートと多数の組織や人間が入り乱れる複雑な構成となっているが、その複雑さで観客にストレスを与えることはない。謎を巧みにちりばめて、観客を物語へ引きずり込んでゆきイーサンハントと共に不可能なミッションに挑んでいると錯覚するほどだ。

IMFが組織の存続にシンジケートとという架空の組織をでっち上げたとCIAに疑われるシークエンスや各組織の関係性などは、どことなく現代の世界に諸問題を想起させる。現代に寄添った真実味を訴えかける脚本により、今作はシリーズ最高傑作と言っても過言ではない作品に仕上がった

 

もはやマーベルやDCといったスーパーヒーロームービーに交じっていても違和感のないほどのイーサンハントは「超人的なスパイ」という印象がこれまでの作品で形成されてしまった。今回は超人的ではない「人間」のスパイに舵を戻している。

バイクで重要人物を追いかけるときに膝をすりむいたり、潜水ミッションで残酸素時間と格闘してみたり、人間味あふれるシーンを大量に落とし込んでいる。物事は簡単に行かないという現実的な場面を見せつけることにより、今回のミッションが難解であると知らしめてくれる。それと同時に超人さを削り人間臭さを呼び戻してくるから、トム演じるイーサンハントへの親近感を強調することにもつながっている。

 

知的な興奮をもたらしてくれる傑作スパイアクション映画が誕生した。

不可能に思えるミッションや荒唐無稽なアクションに真実味をもたらす演出と脚本。ガジェット類も新鮮でオペラシークエンスで登場するとある武器は「これぞスパイ映画」と握り拳を作りたくなるほど視覚的楽しさが満載となっている。

アクションで成り立つ作品と思われがちだが、今回はそれを逆手に取ったサスペンス大作として完成している。観客の認識と期待を逆手に取る巧妙な「罠」がここに存在しているのだ。