LOGのハウス

エンタメ系メディア

台湾映画『變身』が見せつける"日本特撮ヒーロー"への愛

f:id:Sanyontama:20160409232450j:plain


こんにちは@Sanyontamaです。

日本人なら"変身"という文字を見ると何を連想するだろうか。バイクで疾走し、悪を倒す覆面の男が最初に出てくるだろう。

幼いころ、怪人と戦う正義の覆面ヒーローに心を奪われた人も多いと思う。ポーズを決めて「変身!」と叫ぶと、主人公は正義の覆面戦士へと変貌し、平和のために戦ってゆく。
超人的な力を有して、人間では立ち向かえない悪にも立ち向かえる。そんな特撮ヒーローは誰もが一度は憧れる存在だ。変身グッズを買ってもらった人も多いだろう。

台湾映画『變身』はそんな特撮ヒーローにスポットを当てた映画だ。ブルーレイを輸入し、日本語字幕も音声も無い状態での鑑賞になったが、これが完全にやられた。あまりにも素晴らしくて参ってしまう。
日本の仮面ライダーを代表とした特撮ヒーローへの愛にあふれた作品に仕上がっており、凄く楽しめた。

ヒーローのデザインも仮面ライダーを彷彿、というよりもほとんどそのままである。そのせいか台湾では物議を醸し、ニュースにも取り上げられたようだ。

ネタバレを含みます。

あらすじ

特撮ヒーロー番組『宇宙超人FLY』は放送開始当初、爆発的な人気を誇っていた。しかし10年もたつとマンネリ化し視聴率も低下し、人気が陰ってゆく。現状を打破すべく、テレビ局は日本から視察を招き、番組の改善へと動き始める。
日本側の提案で番組は一新されることが決定し二代目ヒーロー『宇宙超人FACE』が登場。FLYはお払い箱となり、主演の鐵男はクビになってしまう。

異国が放つヒーローの姿

脚本はシンプル故に中国語が分からなくても頭にスッと入ってくる。

10年の長きに及ぶ放送によりマンネリが発生してしまい、視聴率は低下する。だが主演の鐵男だけはFLYを演じることに熱を帯びていた。他のスタッフはやる気がないのに、彼一人だけが熱く燃えている。それなのに降板させられてしまうという理不尽さが、この映画の肝だと言えよう。

「ヒーローは死なない」
これは幼くして亡くなった弟と交わした約束だ。だからこそ、彼は愛してやまないFLYの退場、つまり死亡を取り消そうとする。その奮闘っぷりはまさに"ヒーロー"だといえる。だが、その奮闘もむなしくFLYは死亡してしまい、二代目のFACEが主役となる。

てこ入れ劇も日本特撮ではお馴染みの光景だ。
人気が出ないとなると新たな武器を投入したり、新しいヒーローを登場させるのも良くあることである。
FLYは10年の長きにわたり番組を維持できていたのだから、子どもたちの心には確実に刻まれた存在だろう。だからこそ、鐵男はFLYへの愛が人一倍強いのだ。

台湾にはスーツアクターの概念がないのか、FLY主演の鐵男が変身前と変身後の両方を演じている。スーツに入って自ら戦っているのだ。それもFLYに対する愛が強まる要因になっているのだろう。
こういった台湾と日本の差異も面白い点だ。

FLYは巨大化も出来るヒーローだ。仮面ライダーJを彷彿とさせる。
日本では少なくなった立派なセットを組んで怪獣と戦う場面もある。異国の映画なのにどこか懐かしい雰囲気が漂ってくる。
変身ポーズも日本の丸パクリではあるが、古風なスタイルすらも愛おしくなってくる。

怪人と遭遇しても変身せずに生身で戦い、後から変身するというお約束も踏襲されている。平成ライダーでよく見る例の場所っぽいところで戦うシーンもあり、日本の特撮ヒーローを徹底的に研究していることが読み取れる。

鐵男が子どものときに見ていたヒーロー番組が登場するのだが、そのヒーローが本当に古く見える演出も凄まじい。
単純に古臭いデザインにするわけではなく、変身シーンや演出を変えることにより現実的な"古風感"を巧みに演出している。現代のみならず、過去の日本特撮までオマージュする徹底っぷりには感服してしまう。

この作品はメタフィクションだから善悪を問う作品ではない。
だが真っ直ぐに"理想のヒーロー"を描いている。「ヒーローは死なない」というセリフがこの作品の全てだろう。
今は人気がなくても、誰かの心の中には生き続けている。だからこそ、番組を降板させられてもどこかでFLYを、ヒーローを演じたい気持ちが存在している。

f:id:Sanyontama:20160409232022j:plain

出典:http://mypaper.pchome.com.tw/hatsocks75/post/1323796562


仕事を失った鐵男はFLYのスーツを着て通販番組に出演する。MCが病気で出られなくなり、急きょ鐵男が番組を取り仕切ることになる。スタッフ側の不安をよそに、鐵男はMCをこなし売り上げに貢献する。

ピンチに陥った番組を救うどころか売り上げにも貢献してしまう点は、番組側からしてみると"ヒーロー"そのものだといえる。
この作品はコメディタッチで描いているおかげで、タブーとされる部分にも臆することなく踏み込んでいる。

日本では主演俳優がスーツを着て素顔を晒すということは中々発生しない。だがこの映画ではそんな場面が頻繁に登場する。
これも文化的な差かも知れないが、日本では難しい演出をいとも簡単にこなせているのは面白い。

このような演出を行うことで鐵男のFLY愛を強調することにも成功している。だからこそ、彼を番組に復帰させてほしいとの願いが観客に生まれてくるのだ。

本作品は日本特撮ヒーローへの愛は溢れんばかりに描かれている。だがその根底には"ヒーロー"という物への憧憬と理想が込められているのだ。

ヒーローの形はそれぞれ存在している。平和を守り、みんなの笑顔を守ることがヒーローではない。
番組を救うこともヒーローだし、売り上げに貢献することもヒーローの姿だと言える。
単純に悪党と戦うだけがヒーローではないという事をこの作品は伝えてくるのだ。

台湾が本気で特撮ヒーローを作れば日本の脅威となるだろう。
これほど楽しい作品だとは思っていなかった。完全にやられた。

アイキャッチ出典:http://mypaper.pchome.com.tw/wyp2221/post/1323804253