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『GONINサーガ』は時間を進めるために「生きる」ことを否定する

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ヤクザから大金を奪った5人の男たちと、復讐するヤクザを描いたバイオレンス映画。
登場人物は滅びの美学を見せつける。ほぼ男で構成される作品だが、画面からはなぜか色気が溢れ出す。本木雅弘の艶っぽさが悩殺してくるなど、奇怪な雰囲気を放つのがGONINだ。

 その続編として20年越しに「GONINサーガ」が公開された。前作の奇々怪々な艶やかさは鳴りを潜め、その変わりとして映像が暴力的に迫り、観客に殴りこんでくるカルト映画になっていた。

 ネタバレを含みます。

 物語は1995年から開始される。前作ラストの五誠会傘下の大越組襲撃事件から時は停止する。死亡した大越組構成員の遺族たちが大越組を破門し父親のメンツをつぶした五誠会への復讐を開始するという物語だ。

 基本的な物語は前作と似通っている。セルフオマージュやメタ的な人物設定もあるなど、前作を見ていれば一層楽しめる仕上がりになっている。

 そもそも前作はバブル崩壊後、阪神大震災に地下鉄サリン事件など世の終末を予期させる事件事故ばかりが多発していたころに公開されている。
 鬱屈とした世の中における心理状態が前作には反映されているように思えた。本質的な部分では本作でも同じだ。
 現代でも未来が見えないという不安と、何か行動せねばならないが、それが何なのかが見えてこないという焦燥感。95年と何かしら似たような雰囲気に世の中が変貌している。前作では鬱屈の打破が五人の男を動かしたというべきだが、本作では見えぬ未来と現状への「怒り」が男女を突き動かしている。

 その怒りを感じるのはやはり映像だろう。前作に比べると格段に映像は進化している。
 印象的なのは手振れやズームの多様だ。普通の会話シーンでも手ぶれした映像が連続して続いていくため、緊迫感が極限にまで高められている。反対に銃弾が人間に着弾する瞬間を一時停止するなど、映像は暴力的ともいえる熾烈さを見せつける。
 青を基調としたフィルムライクな色長が現代映画のはずである本作に、どこか懐かしさを付与している。映像の色すらも19年前で時が停止したことを暗示させてくる。

 物語は中判付近まで平凡な空気を漂わせる。勢いのなさに不安を覚えるが、それはすぐに払しょくされる。第一の闇金襲撃事件からは突如として加速していく。
 そこからは血みどろだ。殴られ、撃たれる。しかし、実際にそれらの攻撃を受けているのは登場人物ではなく、観客の方なのだ。減速を知らぬ怒涛の展開に観客は打ちひしがれる。圧倒的な力で見る物を殴り殺していくかのような、血みどろ殺戮合戦が未来永劫続くかのと錯覚するほどだ。

 終盤直前に破滅的な暴力に小休止が挿入され、突然の弛緩に観客は怒ることだろう。しかし、その怒りはラストで一気に解放される。唸り声を上げながら突入していく主人公たちのように、見る物の胸を高鳴らせてしまうのだ。これから起こる未来には滅びしか存在しないのに、スーパーヒーローの登場シーンを想起するような心情になってしまう。
 その爆発した怒りによる滅びのシークエンスは、光と影の演出により幻想的な雰囲気に作り上げている。真っ赤な液体ばかりが噴き出す凄惨な場面の連続だ。
 だが、幻想的なのだ。これは殺戮ではなく、魂の浄化なのかと思えてしまう。光と影を異様なほど巧みに操っているおかげで、滅びが時間の針を進めている事実を見せつけてくる。それが本作の殺戮を幻想的な雰囲気へと押し上げる要因だろう。

 怒りの中に、どこかで優しさを感じるという奇々怪々な映像。俳優たちを徹底的に汚しあげ、地の底へと叩きつけるかのような血しぶきの連続には閉口する。
 映像の暴力ではなく映像の殺人とでもいうべき狂気な作品として仕上げられているのだ。

 本作でも雨は健在だ。止まった時計の針が一秒動き出す瞬間には必ず雨が降る。気分を沈める雨。本作では時を進めるために必要不可欠な水として登場人物たちを潤わしていくのだ。
 徹底的な雨により時間の協調。ラストシーンは室内にも関わらずスプリンクラーで疑似的な雨を降らすなど、憑りつかれたかのように、雨を徹底的に降らしているのだ。
 雨は時間を進めるのと同時に、死の象徴でもある。ラストシーンではそれらが巧妙に絡み合い、滅びを呼び寄せてしまう。
 
 だが、その滅びすらも時間を進ませる要因なのだ。
 19年間止まっていた時間は、仇である五誠会を壊滅させることにより、ようやく完璧に進んでゆくのだ。しかし、その仇の代償は死である。前作同様に、登場人物は死にゆく運命なのだ。
 前作では滅ぶことで時間が停止してしまった。大越組襲撃事件から時が止まり、それから逃げてなんとか時間を動かそうとしてもヒットマンが追いかけてきて、時計の針を固定させてしまうのだ。どこか遠くへ逃げようとしても叶えられずに、五人全員が死に絶えて時間は永久に止まってしまう。逃避行は夢物語だったのだ。
 しかし、本作では夢物語を叶えてしまう。その代償は死という滅びであった。本望を遂げたことでようやく時計の針が動き出したのだ。死することで、19年前を終わらせた。
 
 前作とは対照的な結末を迎える「GONINサーガ」
 時間を進めるためには生き抜く以外の方法があるという狂気を見出した奇妙奇天烈な作品。
 ラストの神聖なる殺戮は必見。

 不満はテリー伊藤に恐怖感が全くないという点だろう・・・。