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不快だ!残虐だ!よよいのよい!で創作物を葬るな

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こんにちは。さよたま (@Sanyontama) です。


表現、芸術に対する『挑戦』が起きたようだ。


Twitterを見ていたら「食人族ブルーレイ、発売中止!」というつぶやきが現れて目の前が真っ暗になった。
特に思い入れのある作品ではないが「クレーム」のおかげで見事に発売中止に追い込まれたという話だ。


クレームは「本物の動物を殺しているシーンは如何なものか」という内容らしい。未だ正式発表がないために事実なのかは不明だ。

嘆かわしいというよりも恐ろしい。
クレーム一つで作品がダウンするのだから、恐ろしくて目を背けたくなる。どんなスプラッター作品よりも恐ろしい。

クレームや自主規制などで作品が表舞台から姿を消し「封印作品」の扱いとなることは以前からあった。
有名なものとしては「ノストラダムスの大予言」と「獣人雪男」だろうか。前者はリバイバル上映すら困難だが、後者は時折名画座などでリバイバルされている。獣人雪男に関しては昨年劇場で鑑賞した。
作中の描写が問題となりホームメディア化が実現していない作品だ。
両作品ともに重厚なテーマが存在している。

ノストラダムスの大予言は環境破壊を続ける人類への警笛だ。
獣人雪男は文明人の無自覚な野蛮さを描いている。
このようなテーマがあるものの、テーマ以前に描写に問題があるからとの理由でお蔵入りしている。
両作品が抱える問題はデリケートではあるが、作品の根幹を無視するのは如何なものかと思える。

食人族も同じだ。作品の根幹を成すテーマは素晴らしい。
文明人が未開の原住民と接触する。部族間の抗争を演出するために原住民を徹底的に追い詰めて煽りまくり、ついには怒らせてしまうという内容だ。
文明人と野蛮人、どちらが野蛮なのかと問いかけてくる。
単純なPOV形式のモンド映画として終わらせてはいない。

しかし、クレーム内容は作品テーマとは何ら関係のないものだ。
作中で「本物の動物を殺しているから」という内容。

作中ではの動物解体シーンはフェイクではない。本物の動物なのだ。
だがこの動物たちは最終的にスタッフの胃袋に収まっている。

『食べたから良いという訳ではない』
そんな意見が出てくるだろう。

さて、我々の生活を見ていきたい。
我々は常日頃食事をしている。
食材の殆どは動物だ。スーパーに並ぶ肉や魚も元は「生きていた」。
食べるために、つまり我々が生きるために命を頂いている。
食事をする前に「いただきます」というのもそのためだ。弔いと感謝の念が込められている。
食べるために動物を殺していることに変わりはない。
我々が生きるために動物の命を奪うシーンがあるのがイヤだからクレームを入れるというのどういう神経をしているのか。さっぱり理解できない。

食人族は命を無駄にはしていない。

魚釣りやスポーツハンティングは娯楽だ。生き物を捕まえる。つまり自由を奪っている。最終的には解体して食することもある。これも残虐というのか。
堤防であくびをしながら魚釣りをしている男性を見て「魚を傷めつけることはやめろ」と声を上げるのだろうか?
ハンターは悪魔にでも見えるのか?

このクレームの理論で行けばネイチャードキュメントを作ることはできない。ライオンがシマウマを食するシーンも残虐だし、シャチがアザラシを追い詰めて齧り付くシーンも残虐だ。
命を奪うシーンが残虐だというのなら、創作物やドキュメントの大多数は世に存在してはいけないことになる。

作品のテーマを無視して、特定の描写をやり玉に挙げるという手法は卑劣というよりも、ただの無知であり、恥ずべきものだ。
自分の物差しで世界を見るなと言いたい。

Amazon.co.jp: 食人族 -製作35周年記念HDリマスター究極版- [Blu-ray]の c_hさんのレビュー

このレビューのように、鑑賞すらしていないのに「また聞き」によるイメージで批評もどきを書きつらねるのはもはや一種の才能だ。
作品のテーマどころか、作品を見ずにここまで貶せるのだから見事としか言いようがない。
作品の表層だけでクレームをしてしまうのだから、手に負えない畏怖すべき事態だ。

ブルーレイ化で多額のお金が動いたはずだが、クレームですべてが吹き飛んでしまう。販売元の苦痛も凄まじいはずだ。嫌なら見なければいいだけなのに、苦労を水の泡にしてしまうのだから恐ろしい。

不快だから、気に食わないからという理由でクレームを入れて、それが通ってしまう現実。
これはナチスの焚書を連想させる。

この問題はどの創作物も他人事ではない。
この前例は「クレームを入れれば発売中止に追い込めることが可能」であることを示した。
つまり、自分があなたが好きな作品は他人から見れば不快なものに映っている可能性がある。「不快」と理由で版元にクレームを入れるだけで、封印作品に変貌してしまう。

これは最悪の前例だ。
癪に障る場面があればクレームをすればいい。
クレームが通らなくても「この作品では対応してくれたのに、お宅は対応してくれないなんて不誠実だ」とごり押しすればいい。版元は問題を大きくしたくないから作品を封印する選択をとるかも知れない。全ての作品が封印の道をたどるかは分からないが、その可能性を示してしまったのが食人族騒動だ。

この問題は他人事ではなく、すべての創作物に対する挑戦なのだと思える。

恐ろしい前例が生まれてしまった。不快との一言で創作物が死ぬのだから。
公序良俗に反するような内容ではある。しかし、作品には重厚なテーマが存在している。鑑賞前後では印象が180度変貌するのが「食人族」だ。

文明人と野蛮人、本当に野蛮なのは?
皮肉にも、食人族のテーマがこの騒動にも反映されている。


食人族は版元を別会社に移して「苦情殺到で発売中止!?幻の食人族がHD画質で遂にリリース!」と公開当時を彷彿とさせる過剰な宣伝手法で再リリースを目指そう!!


追記
食人族ブルーレイは発売元を変えて無事発売されることになりました。良かった良かった。

www.rbbtoday.com